伯太川流域でキビシロタンポポの分布調査をしていたところ、奇妙な黄花在来種に出会いました。
伯太町赤屋から鳥取県との県境方向へ伯太川支流の一つを遡った伯太町下小竹(おだけ)の旧小竹小学校廃校です。

昨年のフィールド調査でキビシロタンポポ(Taraxacum hideoi)らしい個体を見つけたのですが、花をつけているのが一個体しか無く、シロバナかキビシロか判定に迷ったので今年改めて調査に来ました。
昨年調査したあたりに沢山の白花タンポポが咲いていて、花の色や形、種子などからやはりここのタンポポはキビシロタンポポと確認できました。
調査していると廃校跡へ向かう坂道の下にキビシロタンポポに混じって大型の黄色いタンポポがありました。

雑種のロクアイタンポポかと思ったのですが、総苞外片は内辺の3/2以上で細長く披針形、先端には大型の角状突起があります。ケンサキタンポポかトウカイタンポポの特徴です。

花粉の大きさが均一だ
タンポポ調査事務局へ送る為に頭花を持ち帰って花粉を調べてみると、驚いた事に大きさが均一です。だとすると2倍体なのでトウカイタンポポの可能性があります。

(花粉の大きさは均一、有性生殖をする2倍体の特徴です)

葉の形も線状披針形で切れ込みが浅く、これもトウカイタンポポの特徴です。

60年前にも2倍体が採集されていた
「日本産タンポポ属の2倍体と倍数体の分布」という1976年の論文で森田竜義先生は、1957年?に島根県赤屋からT.ceratolepis(ケンサキタンポポ:ブログ主註)として採集された京都大学の腊葉標本から花粉を取り出して調べたところ、大きさが均一で2倍体だったとしています。
これについて森田先生は「むしろT.longeappendiculatum(トウカイタンポポ:ブログ主註)と関係の深いものであろう」と考察されています。
今回の場所と赤屋はかなり近くです。上の論文の2倍体と今回見つけたタンポポは関係があるのかもしれません。
しかしトウカイタンポポは本来山陰地方には自生していません。例外的に米子城跡公園という限定した地域に見られるだけです。今回の場所とは県境の山岳地帯を挟んで直線距離で10km以上あり、自然に種が飛んでくることは考えられません。
また、有性生殖をする2倍体のタンポポは自家受粉で種を作れないので、周辺に一定数以上の個体が自生していないと繁殖する事が不可能です。
廃校周辺を丹念に探しましたが、クシバタンポポ1株と外来種、キビシロタンポポしか見つけられませんでした。この1個体しか無いのに自生している事自体不思議な話です。
今後またこの周辺を調査してみる必要がありそうです。
※その後、改めて現地を調査した結果、廃校周辺に20株近く自生している事が確認できました。

これだけの個体数が固まって咲いていれば継続的に種子を作って集団を維持していくことは可能だったと思われます。

(2倍体タンポポは自家受粉できないため、他の花から受粉できないとこのように種が成熟できず、シイナとなります。)

(他の個体の花粉を受粉してちゃんと種子のできているものもありました。)
2倍体の「ケンサキタンポポ」が採集された頃、この地域は赤屋村に属していたことがわかりました。そのタンポポはここと同じ集団のトウカイタンポポで、その頃から世代交替をしながら集団を維持していたのかもしれません。
(2014/5/9追記)