単に調査の空白地帯なのかもしれないと考えて外来種、在来種合わせた全種類の調査地点を確認してみたのですが、ちゃんとその付近も調査されていて、シロバナタンポポの空白地域にも黄花の倍数体や外来種の分布が確認されていました。

このあたりは中国山地の中央部で、気温が低いというのが大きな要因かもしれません。シロバナタンポポは温量指数100以上の地域に分布すると言われています(山口聰:1978)(和田優:1989)。
温量指数100以下になる(つまり平均気温の低い)地域でシロバナタンポポが分布しない原因については、農業環境技術研究所の保谷氏ら(2005)の研究で、10℃以下ではシロバナタンポポの発芽率は低下するということが明らかになっています。このことと関係があるのかもしれません。
中国山地のこの付近の温量指数を気象庁のアメダスより1981-2010年の平均気温を元に各地点の温量指数を計算して、温量指数100のラインを引いてみました(青実線)。
シロバナタンポポ空白域となっているアメダス観測地点と温量指数(緑色の白抜き丸印)
広島県庄原 97.8
広島県高野 83.7
広島県大朝 91.7
広島県世羅 101.4
岡山県上長田 88.0
岡山県新見 95.0
岡山県千屋 84.0
鳥取県茶屋 93.1
島根県掛谷 102.6
島根県横田 95.7
島根県赤名 90.7
島根県瑞穂 93.7
シロバナタンポポが分布しているアメダス観測地点と温量指数(緑色の丸印)
岡山県三次 105.6
岡山県久世 108.5
岡山県津山 109.6
岡山県高梁 115.0
島根県川本 100.0
広島県油木 87.3
空白域のほとんどが温量指数100を下回る地点でした。温量指数100以上の地域とシロバナタンポポの分布はかなりよく一致する結果となりました。
カンサイタンポポの分布図でも、岡山県内に関しては温量指数100のラインが分布の北限となっています。
倍数体であるクシバタンポポはカンサイタンポポとは逆に温量指数100ラインの内側(100以下:気温が低い)が分布域になっています。
東日本に分布する2倍体のカントウタンポポと倍数体のエゾタンポポでは、温量指数100を境に、100以上の地域にカントウタンポポ(シナノタンポポ)、100以下の区域にエゾタンポポが分布しているとのことです。(山口聰:1978)。
おそらく発芽温度の影響でしょうが、2倍体のカントウタンポポ、シナノタンポポは暖かい地域、倍数体のエゾタンポポは気温の低い高地に棲み分けているようです。
それと同じ関係が、クシバタンポポとカンサイタンポポとの間にもみられます。在来2倍体種は温量指数100以上の暖かい地域、クシバタンポポは温量指数100以下の低温の高地と棲み分けています。
倍数体ヤマザトタンポポの分布域はクシバタンポポより広く、おそらく温量指数120のあたりと思われます。つまり、ヤマザトタンポポ はクシバタンポポよりやや暖かい地域を好むということです。